一周忌からの恋 山内ゆう子著

『一周忌からの恋』より

プロローグ  ──テルとの別れ──

 私が19歳から34歳まで15年間暮らした夫、テルの死に顔は本当に美しかった。テルの身を清めながら、こんなにも美しい人と一緒に暮らしていたんだ、そう思うと、ポタン、ポタンと無言の涙がとめどなく落ちてきた。テルの体を拭いているとき、髭と髪の毛がのびているのに気づき、剃ることにした。意識をなくしてから10日経った間に、髭と髪の毛が伸びたのだろう。そうしたお清めが済むと、テルは高僧のような面立ちになった。
 テルが亡くなったことで、二人の生活は終わってしまった。私たち二人に別れの時がきたのだ。
 私たち二人は15年前に「その健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓いますか」と神父様に聞かれ、誓いますと答えた。二人で過ごした15年間は、伴侶としては短い期間ではあったが、その誓いに背くことはなかったと思う。
 私は未亡人になってしまった。結婚のときの誓いを破らなかったのに、未だ亡くならない人と書く、未亡人になってしまった。
 私はテルが亡くなる前に遺した「一刻も早くいい人を探してね」という言葉を生きていく道標にせざるを得なかった。
 
 わたしは一人になりたかったし、誰かのそばにいたかった。
 すべてを忘れたかったし、すべてを記憶したかった。
 相反する思いが同居する心を抱え、それでも私は生きていくしかなった。
 
 そして、テルが亡くなって1年半後、35歳になった私はモンゴルの草原を目指していた。

(以上、著者の了解のもと転載しています。)


発行:ポプラ社
ノンフィクション
ISBN978-4-591-12086-6
2010年12月
¥1,300 +税

ポプラ社ホームページ http://www.poplar.co.jp/



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